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乳がんの薬物療法

乳がんの化学療法

抗がん剤治療という言葉から連想される、最も一般的な治療法がこの化学療法です。抗がん剤は乳がんの広がりに対して、術前化学療法、術後化学療法、そして遠隔転移に対する化学療法に用いられます。抗がん剤の投与は、患者さんの乳がんの性質によって、いくつかの種類の薬を組み合わせて点滴でおこなわれます。

手術をおこなうことが困難な場合やしこりが大きく乳房部分切除術ができない場合には、術前化学療法をおこないます。まず化学療法を数カ月ほどおこない、腫瘍を縮小させてから手術をします。術後化学療法をおこなうのは、どこかに潜んでいる可能性がある微小転移を死滅させることです。
ほかの臓器に転移(遠隔転移)している場合や再発した場合には、がん細胞を完全に死滅させることは困難なので、症状を和らげたり、進行を抑えることで延命効果を得たりする目的で抗がん剤治療をおこないます。

抗がん剤の副作用

抗がん剤はがん細胞に作用して増殖を抑え死滅させますが、正常な細胞にも影響を与えるため、全身にさまざまな副作用が現れます。新陳代謝が盛んな細胞を攻撃する特徴があるため、正常細胞の中でも特に消化管や毛髪、骨髄などの細胞が影響を受けやすくなり、個人差はありますが、吐き気や食欲減退、下痢、脱毛、白血球の減少といった症状が出ることがあります。

抗HER2療法(分子標的治療)

がんの増殖に関する特定の分子を狙い撃ちする
抗がん剤治療には、化学療法のほかに、分子標的薬といわれる抗がん剤を用いた治療があります。分子標的薬は、がん細胞に特異的に見られる分子に標的を定めて用いることにより、効果的にがん細胞に作用します。
乳がんの中にはHER2(ハーツー)と呼ばれるタンパク質が過剰に発現しているタイプがあり、これはがん細胞の増殖能力が旺盛な手強いがんです。ただ、HER2をピンポイントに攻撃する分子標的薬がよく効くことがわかっています。代表的な分子標的治療薬にはハーセプチンという特効薬があり、がん細胞の表面に存在するHER2タンパクに結合し、がん細胞の増殖を抑えます。

分子標的治療薬は特有の「手」を持つがん細胞だけを狙い撃ちします。副作用として心臓や呼吸器、消化器、皮膚などへの影響はさまざまありますが、いわゆる「抗がん剤」と比べて正常な細胞への影響は少なく、がんの増殖を抑制することに期待できます。

乳がんのホルモン療法(内分泌療法)

女性ホルモンの働きを抑えて、がん細胞の増殖を阻止する
母乳をつくる乳腺の細胞は特に女性ホルモンの働きを強く受けていて、乳がんには、体内の女性ホルモンの影響でがん細胞の増殖が活発になる性質のものがあります。
ホルモン療法は、ホルモン依存性の乳がんの増殖を促すエストロゲンという女性ホルモンが働かないようにしたり、エストロゲンがつくられないようにする治療法なので、正確には「抗ホルモン療法」といいます。

閉経前と後で治療薬は異なる

閉経前の人と閉経後の人では体内の女性ホルモンの環境が異なり、治療法も違ってきます。まだ卵巣機能が働いている閉経前の人には『LH-RHアゴニスト製剤』が用いられ、卵巣機能が低下した閉経後の人には『アロマターゼ阻害剤』が用いられます。また、閉経の状況を問わずに効果を示すものに『杭エストロゲン剤』があります。杭エストロゲン剤は乳がんのホルモン治療薬の中で最も標準的な薬であり、乳がんの増殖を促すエストロゲンがエストロゲン受容体(ER)と結合するのを妨げることで、ホルモン依存性の乳がんの増殖を抑えます。

抗エストロゲン剤やアロマターゼ阻害剤は毎日経口で5年~10年間服用し、LH-RHアゴニスト製剤は4週、12週、24週ごとに1回、2~3年間ほど皮下脂肪の中に注射します。それぞれの薬剤の副作用として、ほてりやのぼせ(ホットフラッシュ)、発汗をはじめ、関節や骨・筋肉の症状、生殖器の症状、精神・神経の症状が出ることがあります。

薬物を用いた乳がんの全身治療

薬物療法の必要性

乳腺で生まれた乳がんは乳房の中で発育しながら、血液やリンパ液の流れにのって全身を巡り、流れ着いた臓器などで再び芽を出し、新たに発育することを転移といいます。また、転移が乳房と乳房の近くのリンパ節を越えてそれより外部へ及んだものを遠隔転移といいます。そして、転移したがん細胞が成長しレントゲン写真などではっきり見てとれるようになると再発といいます。
こうした転移や再発の危険性は、ごく早期の場合を除いた多くの乳がんで考えられます。転移したがんは、放っておくとどんどん成長し、臓器を破壊してやがて私たちの命を奪います。

局所治療である乳がんの外科手術や放射線治療は、がんが及んだ範囲内での効果しか期待できません。がんが乳房と近くのリンパ節にとどまっている場合には大きな効果がありますが、全身へ転移してしまったがんに対しては一般に無力で、転移したがんを治療するためには、全身治療としての薬物療法が必要になります。

薬物による乳がんの治療法

手術が困難な進行性の乳がんや、しこりが大きくて乳房温存手術が困難な乳がんの患者さんには、がんを縮小させて手術を可能にする目的で、術前に薬物療法をおこなうことがあります。また、乳がんのがん細胞は血液やリンパ液を介して体内の別の場所へ運ばれ、手術後もどこかに隠れている可能性があるので、こうしたがん細胞を根絶する目的で、術後に薬物療法をおこなうのです。

抗がん剤治療にはさまざまな副作用がありますが、抗がん剤治療を受けることで、乳がん患者さんの多くは再発が予防され、乳がんで死亡するリスクが低くなります。副作用を抑えるための治療も発達してきていて、以前と比べるとだいぶ楽に治療が受けられるようになっています。

乳がんの薬物療法には、化学療法(抗がん剤療法)、抗HER2療法(分子標的治療)、ホルモン療法(内分泌療法)の3つの大きな治療法があります。薬剤にはさまざまな種類があり、薬剤の組み合わせについては、サブタイプの分類により異なります。
がん細胞の性質はサブタイプによって異なるので、次のようにそれぞれのタイプに適した薬物療法(化学療法、抗HER2療法、ホルモン療法)を選択して治療を進めていきます。

乳がんのサブタイプによる薬物療法

  • ルミナールAタイプ ・・・ホルモン療法
  • ルミナールB(HER2陰性)タイプ ・・・ホルモン療法 + 化学療法
  • ルミナールB(HER2陽性)タイプ ・・・ホルモン療法 + 化学療法 + 抗HER2療法
  • HER2タイプ ・・・化学療法 + 抗HER2療法
  • トリプルネガティブ ・・・化学療法

乳房温存手術後の放射線治療

放射線治療で乳がんの再発の危険性を減らす

放射線治療は、高エネルギーのX線を照射することでがん細胞を死滅させる治療法です。放射線を照射した部分だけに効果を発揮します。
がん細胞は正常細胞よりも放射線の影響を受けやすいので、正常細胞に大きなダメージを与えない範囲の線量を照射することでがん細胞を死滅させます。

乳がんの治療においての放射線治療は、おもに乳房部分切除術(温存術)後の残された乳房のどこかに潜んでいるかもしれない微小ながんの再発を防ぐためにおこないます。再発した場合にも、がんの増殖や転移による痛みなどの症状を改善するためにおこなうことがあります。
なお、放射線治療をおこなうことによって、乳房内でのがんの再発は約3分の1に減ることが明らかにされています。

温存手術を受けた患者さんは、術後20週以内に放射線治療を受けることが原則ですが、もともと乳房内に再発する危険性が低い人(高齢でホルモン療法が効くタイプ)の場合などには放射線治療を省略できることもあります。

乳房を全摘した場合は、原則として放射線治療を受ける必要はありません。しかし、腫瘍の大きさが5cm以上だったり、複数(4つ以上)のリンパ節への転移が認められ、胸壁やリンパ節などから再発する危険性が高い場合は、化学療法やホルモン療法に加え放射線療法もおこなったほうがよいとされています。

放射線治療は毎日おこなう

放射線を照射する範囲や量、時間は、放射線治療をおこなう目的、病巣のある場所や広がり具合などによって管理されます。多くの場合、外来での治療が可能です。
放射線が物質(人体)に吸収される量を表す単位をグレイ(Gy)といいますが、手術した乳房全体に対して1回の線量2.0グレイの照射を、月曜日~金曜日までの週5日、毎日同じ時間におこないます。期間は約5週間~6週間かけておこない、総線量は50グレイ程度になります。
1回の照射時間はおよそ3分程度で、着替えも含めて10分ほどあれば終わります。

患者さんにとっては、毎日病院に通い治療を受けるのは大変なことですが、少しずつ分割して照射するのは正常組織への影響を減らし、がん細胞を弱らせて死滅させるためです。途中で間を空けてしまうと、同じ総線量を照射しても効果が薄れてしまうのです。

放射線治療による副作用

放射線治療の副作用には、治療中や治療終了の直後に現れる急性障害と、治療終了後の数カ月~数年後に現れる晩期障害があります。放射線の副作用が現れるのは照射した部位に限られ、残された乳房、手術した側の胸壁やその周囲のリンパ節領域となります。
放射線を照射しているときに痛みや熱さを感じることはなく、放射線物質が体に残ることもないので心配いりません。また、抗がん剤を使ったときのような重度な副作用は、ほぼありません。

治療中や治療終了直後に現れる副作用には、多くの患者さんに皮膚炎が見られます。放射線を当てている部分の皮膚が日焼けをしたように赤黒くなり、かゆみが出たり、ヒリヒリすることがあります。照射後には皮膚が黒ずんで汗をかきにくくなります。皮膚がカサカサと乾燥するので保湿することが大切です。また、皮膚が弱くなっているので、傷つけないように注意が必要です。
そのほか、照射期間中には、疲れやだるさを感じる患者さんもいます。

治療終了後しばらくして現れる副作用については、重大な副作用の頻度は少なく、それほど心配する必要はありません。しかし、まれに、放射線が肺に照射されることによって起こる肺炎が治療後数カ月以内に見られることがあります。せきや微熱が続いたり、胸の痛みや息苦しさなどが起こります。

放射線治療を受けることによって、新たながん(2次がん)の発生が心配な患者さんもいると思いますが、その危険性は極めて低くなっています。

乳がんの外科手術について

乳がんの手術と入院

乳がんの外科手術は、近年めざましく進歩しています。乳房温存療法の確立と、センチネルリンパ節生検に基づいたリンパ節郭清の省略によって、患者さんの術後の乳房の変形と機能障害が大きく軽減されて、生活の質も向上してきています。

乳がんの手術には、がんができた乳房を全体に切除する「乳房全切除術」と、がんとその周囲の乳腺および脂肪組織を切除する「乳房部分切除術」の2つがあります。どちらの術式にするかを決めるには、乳房の部分切除が可能かどうかの決定が最も重要です。
乳がんの手術は、ほかの臓器のがんの手術と比べると安全な手術で、手術時間はおよそ1時間30分~3時間ほどです。入院期間は、医療機関、術式や術後の経過によって差がありますが、部分切除術では術後3~7日程度、全切除術では術後7~10日程度で退院となります。

退院後の生活について

乳がんの手術後、特に腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい)をおこなった場合には、リンパ液の流れが悪くなったり手術の傷がつっぱって腕や肩が動かしにくくなったりすることがあり、それに対してのリハビリテーションがあります。退院後は自分でリハビリテーションを続けながら、徐々に家事や仕事を再開していきましょう。
また、乳がんの手術後には放射線治療や抗がん剤治療がありますから、術後しばらくの間は、それまでと同じリズムで生活をすることが難しくと思われます。
腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい)について、詳しくはこちら

温存術でがんを取りきり、いかにきれいに乳房を残せるか

乳房部分切除術(温存術)では、乳管の中に伸びたがんを取り残すことなく切除することが重要です。しかし、術前に乳がんの広がりを正確に診断することは現在の画像診断技術でも難しいので、手術中に切除された乳腺の端あるいは残した乳腺の断面にがんが無いかを顕微鏡で確認しながら切除していきます。
部分切除術は、がんの広がりに応じてきちんと取り除き、なおかつ乳房の形をきれいに整えられてこそ意味があります。
乳房部分切除術と術後におこなう放射線治療を合わせて乳房温存療法といいますが、温存療法の適応の決定と術後の乳房の形容には、患者さんのがんができている場所のほか、年齢や体質、乳腺がしっかりしているか、脂肪の多い乳房であるかなど、たくさんの要因が絡み合います。

しこりが小さくても乳房を温存できない場合がある

乳房部分切除術(温存術)の対象になるのは、比較的早期の乳がんです。進行してしまっているがんなどでは適応になりません。
しこりの大きさは、浸潤したがんの大きさと乳管内に進展した範囲で決まります。温存術の対象の基準は浸潤した部分のがんの大きさで、浸潤がんの大きさが3㎝ぐらいまでが一応の目安です。

がんの大きさよりも悪性度で判断される

乳房の温存療法の適応とする場合に最も重要なのは、悪性度の高いがんを除外することです。
乳腺内に転移したがんが主病巣から離れ周囲の組織へと広がっているような場合、高度のリンパ管侵襲が認められる場合などは、温存療法を選択することはできません。

乳がん治療の流れ

非浸潤がん(ステージ0)の場合の治療の進め方

がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている非浸潤がんでは、適切な治療をおこなえば転移や再発をすることはほとんどないと考えられています。
非浸潤がんで腫瘍の範囲が小さいと考えられる場合には、乳房部分切除術あるいは乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検をおこなって、術後に放射線療法をおこないます。非浸潤がんであっても腫瘍が広い範囲に及んでいる場合には、乳房全切除術が必要になります。また、非浸潤がんであれば、微小転移を伴う可能性が低いと考えられ、術後の薬物療法は必要ありません。
ホルモン受容体が陽性の場合には、乳房部分切除術後に抗ホルモン剤を5年間内服するという選択肢もあります。

浸潤がんの治療の進め方

ステージⅠ~ⅢA(腫瘍が比較的小さい場合)
浸潤がんであっても、腫瘍の大きさが比較的小さく、石灰化が広範囲に広がっていないような場合には、乳房部分切除術で乳房の温存が可能です。腫瘍が乳頭に近い場所にある場合でも、乳房温存手術ができることもあります。乳房温存術を選択した場合には、原則として術後に放射線療法が必要になります。また、必要に応じて術後に薬物療法をおこないます。

ステージⅠ~ⅢA(腫瘍が比較的大きい場合)
腫瘍の大きさが比較的大きく、乳房部分切除術が困難であると考えられる場合には、乳房全切除術をおこないます。なお、ステージⅠの患者さんでも、マンモグラフィで広い範囲に石灰化が認められたり、CTやMRI検査の結果、乳房内の広範囲にがんが広がっていると考えられる場合には乳房全切除術をおこないます。
腫瘍が大きいために乳房を温存できないとなった場合でも、術前に薬物療法をおこなって腫瘍を小さくすることができれば、乳房部分切除術が可能になる場合があります。

腋窩リンパ節の切除
手術前に明らかに腋窩リンパ節転移が認められる場合には、腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい)が必要です。
腫瘍の大きさに関係なく、手術前の検査で明らかな腋窩リンパ節転移がない場合にはセンチネルリンパ節生検をおこないます。センチネルリンパ節に転移がなければ、腋窩リンパ節郭清は省略できます。

術後の薬物療法

  • 【化学療法】(抗がん剤治療)
    化学療法をおこなうかの決定については、乳がんの進行度やグレード、HER2やホルモン受容体の状態など乳がんの性質によって異なります。
  • 【抗HER2療法】(分子標的治療)
    HER2陽性で、腋窩リンパ節に転移がある、あるいは腋窩リンパ節に転移はなくても再発リスクが高いと判断された場合に、トラスツズマブ(ハーセプチン)などの分子標的治療薬による抗HER2療法をおこないます。分子標的治療薬は、アンスラサイクリン系薬剤やタキサン系薬剤などの抗がん剤と組み合わせて投与されます。
  • 【ホルモン療法】
    ホルモン受容体が陽性の場合、ホルモン療法をおこないます。ホルモン受容体が陽性でHER2が陰性の場合には、ホルモン療法をおこないます。がん細胞全体におけるホルモン受容体陽性細胞の割合が多いほど、ホルモン療法の効果は高くなります。

ステージⅢB、ⅢC
がんが乳房表面の皮膚や胸壁にまで及んでいたり、鎖骨上のリンパ節にまで転移が及んでいたりする場合は、そのまま手術することはできません。また、体のどこかに微小転移を伴う可能性が非常に高いため、主な治療手段は薬物療法となります。薬物療法によって腫瘍が縮小した場合には、手術や放射線療法などの局所治療を追加することが検討されます。

ステージⅣ
転移乳がんとして全身治療をおこないます。乳房から離れた場所にがんの遠隔転移がある場合、現在の治療法では、全身のどこかに潜むがん細胞を根絶するのは難しいと考えられます。遠隔転移に対しては手術はおこなわず、薬による治療が基本です。乳がんに有効な薬にはさまざまな種類がありますので、効果をみながら治療を続けていくことになります。

薬物を用いた乳がんの全身治療

乳がんの治療を始める前に

乳がんだと宣告された患者さんは、これからつらい治療を始めることになります。それには、まず、自分が『がん』であることを受け入れることが必要です。

がんであることを受け入れよう

なぜ自分が乳がんになってしまったのかという思いを始め、自分はこれからどうなるのか、仕事は続けていけるのか、もし自分が死んでしまったら残された家族はどうなるのだろう、など、さまざまな不安や苦悩が押し寄せることでしょう。

がん宣告を受ければ、誰でも強い不安に襲われるのが普通です。それには治療に対する不安もありますが、それよりもがんを抱えていることの不安のほうが深刻な問題です。しかし、手術によって腫瘍を取り除くことができれば、気持ちはとても楽になります。

がんを受け入れて自分の病状を理解し、現実を受け止める。これが、すべての治療のスタートになるのです。

乳がん治療の流れを知っておこう

乳がんの治療法には、

  1. 手術(外科治療)
  2. 放射線治療
  3. 抗がん剤治療(薬物療法)

の3つがあり、これを、がんの3大療法といいます。

乳がんの外科手術には、乳房を全て切除する乳房全切除術(全摘)と、乳房の一部だけを切除する乳房部分切除術(温存)があります。そして、薬物療法には、化学療法、ホルモン療法、分子標的治療があります。
乳がん治療においては、がんの性質と進行具合に応じて、適切な治療法を組み合わせておこなうことが重要になります。それぞれの治療法には利点と欠点がありますので、効果と副作用をよく熟知した乳がん専門医のもと、治療を進めていきましょう。

治療の進め方としては、手術をおこなった後に抗がん剤治療を始めるのが一般的ですが、先に抗がん剤治療をおこなう場合もあります。これを「術前化学療法」といいます。手術を先におこなうのは手術によって局所のがん巣を取りきることができる可能性がある場合であり、進行した乳がんでは抗がん剤治療から始めます。また、早期の乳がん(非浸潤がん)では、放射線治療や抗がん剤治療が省略される場合もあります。

放射線治療は、部分切除された後の乳房に対しておこなわれ、乳房にできたがんと、わきの下、胸骨の近く、鎖骨の上のリンパ節(領域リンパ節)のがんの制御を目指します。順をいうと、手術の後、抗がん剤治療をおこなう前または抗がん剤治療をおこなうのと同時進行です。

乳がんの性質によって治療法は変わる

これまで乳がんの治療は、病期ステージに基づいて決められるのが一般的でしたが、近年はがんの性質についての研究が進み、乳がんの病期よりも性質のほうを重視して治療方針を決めようという方向へ変わってきています。そのために、生検などで採取した組織をもとにがんの性質を調べる検査が重要です。
乳がんの病期(ステージ)はこちら

腫瘍(しこり)が小さいから大丈夫、大きいから手遅れ、ということではなく、しこりの大きさや進行度よりも、がんの性質が重要な情報となります。

乳がんの性質を知るポイントとなるのは次の4つです。

  1. ホルモン受容体が有るか無いか
  2. HER2受容体の過剰な発現が有るか
  3. がんの核異型度(悪性度)
  4. 細胞の増殖の割合を見るKi67の値

ホルモン感受性のあるがんにはホルモン療法が有効となる

日本人女性の乳がんの人のうち70パーセントくらいの人がホルモン受容体が陽性で、女性ホルモンのエストロゲンの刺激を受けてがん細胞が成長するタイプです。このタイプはホルモン感受性があるため、ホルモン療法が有効となります。

ホルモン受容体には、ER(エストロゲン受容体)とPgR(プロゲステロン受容体)の2つがあるのですが、どちらか一方でも陽性であればホルモン受容体が陽性であると診断されます。そして、陽性細胞の割合が1パーセント以上あると、ホルモン療法の適応となります。

ホルモン療法の効果の現れやすさは、陽性細胞の割合に比例します。つまり、陽性細胞の割合が高いほど、ホルモン療法の効果も高いといえるのです。

HER2受容体が陽性のタイプには分子標的薬を用いる

HER2(ハーツー)受容体は細胞の表面にあるタンパク質で、細胞の増殖を調整する役割があります。これががん細胞の表面に過剰に認められたものは、増殖能力が高く、成長のスピードが速く、転移しやすいのが特徴です。

HER2受容体が陽性の乳がんは、乳がん患者全体の20パーセントほどの人に認められます。このHER2受容体陽性の乳がんは極めて性質の悪いがんなのですが、分子標的薬といわれる抗HER2薬によく反応します。

分子標的薬は、一般の抗がん剤とは違い、がん細胞の表面にあるタンパク質や遺伝子のみをターゲットとして効率よく攻撃することができる治療薬です。トラスツズマブ(ハーセプチン)という分子標的薬はとても効果的な治療薬で、それまで、性質が悪く患者の予後が悪いとされていたタイプのがんが、むしろ「薬がよく効く性質の良いがん」だといわれるようになりました。

HER2タンパクが陽性か陰性かを調べる検査は、乳がんの性質を知って治療法を決定するうえで極めて重要です。がん組織の免疫染色法で測定され、0、+1、+2、+3の4段階で評価されます。
0は陰性、+1は弱陽性、+2は疑陽性、+3は陽性となります。+2の疑陽性の場合はFISH法という方法で再検査をおこない、HER2遺伝子が過剰発現していれば陽性となり、+3の人と同じくハーセプチンの適応となります。

がん細胞の悪性度と増殖能

がん細胞の悪性度とは、顕微鏡で見たがん細胞の形から判断するもので、がん細胞の「顔つき」と表現されたりします。悪性度は、グレード1、2、3の3段階で評価され、数字が大きくなるほど核の異型度が高く、悪性度も高いということになります。浸潤がんでは、がん細胞の悪性度が高いと転移や再発をする可能性が高くなります。

一般に、細胞が増殖する能力が高い乳がんは低い乳がんに比べ悪性度が高いのですが、そのぶん抗がん剤が効きやすいといわれています。がん細胞の増殖や活動状態の程度を表すのに、Ki(ケーアイ)67という指標が用いられます。Ki67は細胞が分裂するときに生じるタンパク質で、乳がんなどの増殖能力を示すマーカーとして用いられています。Ki67陽性細胞は増殖の状態にあると考えられ、したがってKi67陽性細胞の割合が高い乳がんは、増殖能が高く悪性度が高いと考えられます。

乳がんのサブタイプ

乳がんは、がん細胞の増殖にかかわる2つのホルモン受容体 ER(エストロゲン)とPgR(プロゲステロン)、HER2(ハーツー)、Ki(ケーアイ)67の指標の組み合わせで、サブタイプの分類がされています。サブタイプによって、薬物療法の内容も違ってきます。
乳がんのサブタイプ別の薬物療法はこちら

サブタイプの分類

  • ルミナールAタイプ=ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki67増殖能低
  • ルミナールB(HER2陰性)タイプ=ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki67増殖能高
  • ルミナールB(HER2陽性)タイプ=ホルモン受容体陽性、HER2陽性
  • HER2タイプ=ホルモン受容体陰性、HER2陽性
  • トリプルネガティブ=ホルモン受容体(ER・PgR)陰性、HER2陰性

乳がんの病期(ステージ)

乳がんの病期は0期からⅣ期までに分けられる

病期というのはがんの進行度を示す指標であり、治療の基本方針を決める指針となります。よく「ステージ」という言葉でも表されます。
手術前におこなわれるさまざまな検査結果から、腫瘍(しこり)の大きさ、リンパ節への転移の有無、他の臓器への転移の有無によって分類されます。

乳がんの病期(ステージ)は0期からⅣ期までに分類され、さらにⅡ期についてはⅡA期、ⅡB期があり、Ⅲ期についてはⅢA期、ⅢB期、ⅢC期があり、細かく分けられています。

0期とはがん細胞が乳管の中に留まっている状態で、非浸潤がんであることを意味しています。「しこり」としての姿をあらわす前の段階です。非浸潤がんは乳管の外には広がっていないので、転移することはありません。手術で取り除けばきちんと治るがんですが、乳管の中で広範囲に広がっていると温存は難しく、乳房を全摘出しなければならない場合があります。

乳がんの病期の分類

0期・・・がん細胞が乳管の中に留まっている非浸潤の状態。
Ⅰ期・・・しこりの大きさは2㎝以下で、リンパ節への転移を認めない。
ⅡA期・・・しこりの大きさは2㎝以下でリンパ節への転移の疑いがある、あるいは、しこりの大きさは2㎝~5㎝でリンパ節への転移の疑いがない。
ⅡB期・・・しこりの大きさは2㎝~5㎝でリンパ節への転移の疑いがある、あるいは、しこりの大きさは5㎝以上でリンパ節への転移の疑いがない。
ⅢA期・・・しこりの大きさは5㎝以上でわきの下によく動くリンパ節転移が認められる。あるいは、しこりの大きさに関係なく、わきの下や周囲の組織に癒着していて動かず、リンパ節への転移が疑われる。または、胸骨の内側のリンパ節への転移が疑われる。
ⅢB期・・・しこりの大きさに関係なく、がんが皮膚に浸潤している。あるいは、がんが胸壁に浸潤している。
ⅢC期・・・しこりの大きさに関係なく、鎖骨の上下、胸骨の横にリンパ節への転移が認められる。
Ⅳ期・・・しこりの大きさ、リンパ節への転移の有無に関係なく、遠隔転移(他の臓器への転移)が認められる。

病期ステージはがんの進行具合を示す目安になる

しこりの大きさを正確に計測するのは、必ずしも容易ではありません。触診での大きさと画像診断での大きさが一致しないことがあります。画像診断の中でもマンモグラフィーと超音波診断では大きさがずれることもあります。また、リンパ節転移の有無と程度はあくまで臨床診断の結果ですから、そこで転移がないと診断されても病理診断では転移が認められるケースがあり、その逆のケースもあります。Ⅱ期、Ⅲ期とステージが上がってくると心配になるでしょうが、病期はがんの進行具合を示すひとつの目安ですから、あまり深刻に受け止めないでおきましょう。

センチネルリンパ節生検

乳がんは治療法の進歩により、世界的に患者の生存率が向上しています。現在では、乳がんの手術にセンチネルリンパ節生検は標準的な検査法です。

リンパ節への転移があるかないかを調べる検査法

がん細胞が、がん巣から離れてリンパ液の流れにのってリンパ節まで流れ着き、そこで着床して増殖を始めることをリンパ節の転移といいます。乳がんの場合は、わきの下にある腋窩(えきか)リンパ節に好んで転移します。そして、さらに腋窩(えきか)リンパ節を経由して、ほかの臓器にも転移していくのです。

乳がんが発見された場合に、局所に留まっているのか、ほかの臓器にまで広がっている可能性があるのかを見極めるために重要なのが、リンパ節への転移の有無です。
リンパ節への転移の有無を調べるための検査法として、触診、超音波検査やPET-CT検査などがありますが、どの方法を用いても正確な転移状況を知ることはとても難しく、転移していないと診断することは、こういった方法だけでは可能ではありません。

わきのリンパ節への転移が認められた場合には、転移が確認されたリンパ節だけでなく、転移している可能性があるリンパ節を含めて予防的に周囲の脂肪とともに取り除くことになります。これを腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい)といいます。

腋窩リンパ節郭清には、転移の有無を調べて診断する、転移があればそれを取り除いて治療する、という2つの大切な目的があるのですが、腋窩リンパ節を郭清することによって、腕のむくみ、手術後のわきへのリンパ液の貯留、わきの感覚の異常、といった後遺症が引き起こされる可能性があります。

組織の隙間を流れているリンパ液の流れには一定の方向性があって、リンパ管の中を圧力の低い方へ流れていき、やがて特定のひとつのリンパ節へ流れ込みます。これが「センチネルリンパ節」です。センチネルリンパ節のセンチネルは「見張り」を意味し、センチネルリンパ節というのは、リンパ管に入ったがん細胞が最初にたどり着く腋窩リンパ節のことで、リンパ節へのがんの転移を見張っているという意味合いがあります。

センチネルリンパ節に転移していない場合、腋窩リンパ節郭清はしない

センチネルリンパ節生検とは、乳がんの腫瘍の近くに、アイソトープというわずかに放射線を発する物質、または色素を注射し、これを目印にして、手術中にセンチネルリンパ節を探し出して摘出し、このリンパ節にがんが転移していないかどうかを調べることをいいます。手術中に迅速診断をして、センチネルリンパ節にがんの転移が認められない場合には、リンパ節の郭清(かくせい)をおこないません。これは、最初に転移するセンチネルリンパ節に転移がなければ、ほかのリンパ節に転移している可能性が極めて低く、リンパ節の郭清を省略しても大丈夫、ということです。

ただし、センチネルリンパ節生検をおこなうにあたり、いずれも確率は低いですが、色素にはまれに強いアレルギー反応が起きることがある、センチネルリンパ節を同定できないことがある、転移リンパ節を見逃す可能性がある、などの問題点もあります。

乳がんの治療法を決めるための検査

乳房内のがんの広がりを調べる検査

乳がんの一般的な手術には、乳房温存術と乳房切除術がおこなわれています。
乳腺の一部を切除して乳房を残す乳房温存術では、がんの広がりに応じて取り残しのないように切除しなければなりません。そして、温存術の適応の決定のためには、乳腺内でがんがどの程度広がっているかの診断が極めて重要になります。
乳がんの広がり診断でチェックするポイントには、

  • がんが乳管の中のどこまで進展しているか
  • がんが周囲の組織まで浸潤しているか乳管内へのがんの転移はあるか
  • 複数のがんが多発していないか

といったことが挙げられます。

MRI(磁気共鳴画像検査)

MRI検査では、磁気を用いて私たちの体をあらゆる角度から輪切り状に撮影し、立体画像を得ることができます。乳房内でのがんの広がりや複数のがんの有無を調べるのに最も優れているのが、このMRI検査です。MRI検査はX線とは違い被曝(ひばく)する心配はありません。デメリットとしては、狭い空間で数十分くらい身動きがとれないこと、機械の大きな音が発せられるので不快なこと、などがあります。
乳がんのMRI検査は、造影剤を注射したあと、うつぶせの状態で撮影します。

転移があるかを調べる検査

がんを治療するには、治療を始める前に正しい病期の診断が重要になります。それには、領域リンパ節への転移があるかないか、遠隔臓器への転移があるかないかを明らかにしなければなりません。乳がんの場合、好んでリンパ節、骨、肺、肝臓などの臓器へ転移することがわかっています。

CT検査

CT検査では、X線を用いて体を輪切り状に撮影し、乳腺内のがんの広がりを画像として描き出すことができます。乳房以外の臓器への遠隔転移を発見するのに有用です。デメリットには、X線の被曝を受けることがあります。

骨シンチグラフィー

骨シンチグラフィーは、全身の骨の様子を撮影し、がんが骨に転移していないか、X線検査ではわかりにくい骨の状態を調べることができます。ラジオアイソトープという放射線医薬品を注射し、代謝が活発な骨に薬が取りこまれる様子を調べます。

PET-CT検査

がん細胞がブドウ糖を好むという性質を利用したPET検査がありますが、PET-CTはPETとCTの画像を同時に撮影することができる機器で、単体での検査よりも、より信頼性のある検査ができます。PET-CT検査は、医療機関のほか、専門の検診センターでも受けることができます。