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乳がんの薬物療法

乳がんの化学療法

抗がん剤治療という言葉から連想される、最も一般的な治療法がこの化学療法です。抗がん剤は乳がんの広がりに対して、術前化学療法、術後化学療法、そして遠隔転移に対する化学療法に用いられます。抗がん剤の投与は、患者さんの乳がんの性質によって、いくつかの種類の薬を組み合わせて点滴でおこなわれます。

手術をおこなうことが困難な場合やしこりが大きく乳房部分切除術ができない場合には、術前化学療法をおこないます。まず化学療法を数カ月ほどおこない、腫瘍を縮小させてから手術をします。術後化学療法をおこなうのは、どこかに潜んでいる可能性がある微小転移を死滅させることです。
ほかの臓器に転移(遠隔転移)している場合や再発した場合には、がん細胞を完全に死滅させることは困難なので、症状を和らげたり、進行を抑えることで延命効果を得たりする目的で抗がん剤治療をおこないます。

抗がん剤の副作用

抗がん剤はがん細胞に作用して増殖を抑え死滅させますが、正常な細胞にも影響を与えるため、全身にさまざまな副作用が現れます。新陳代謝が盛んな細胞を攻撃する特徴があるため、正常細胞の中でも特に消化管や毛髪、骨髄などの細胞が影響を受けやすくなり、個人差はありますが、吐き気や食欲減退、下痢、脱毛、白血球の減少といった症状が出ることがあります。

抗HER2療法(分子標的治療)

がんの増殖に関する特定の分子を狙い撃ちする
抗がん剤治療には、化学療法のほかに、分子標的薬といわれる抗がん剤を用いた治療があります。分子標的薬は、がん細胞に特異的に見られる分子に標的を定めて用いることにより、効果的にがん細胞に作用します。
乳がんの中にはHER2(ハーツー)と呼ばれるタンパク質が過剰に発現しているタイプがあり、これはがん細胞の増殖能力が旺盛な手強いがんです。ただ、HER2をピンポイントに攻撃する分子標的薬がよく効くことがわかっています。代表的な分子標的治療薬にはハーセプチンという特効薬があり、がん細胞の表面に存在するHER2タンパクに結合し、がん細胞の増殖を抑えます。

分子標的治療薬は特有の「手」を持つがん細胞だけを狙い撃ちします。副作用として心臓や呼吸器、消化器、皮膚などへの影響はさまざまありますが、いわゆる「抗がん剤」と比べて正常な細胞への影響は少なく、がんの増殖を抑制することに期待できます。

乳がんのホルモン療法(内分泌療法)

女性ホルモンの働きを抑えて、がん細胞の増殖を阻止する
母乳をつくる乳腺の細胞は特に女性ホルモンの働きを強く受けていて、乳がんには、体内の女性ホルモンの影響でがん細胞の増殖が活発になる性質のものがあります。
ホルモン療法は、ホルモン依存性の乳がんの増殖を促すエストロゲンという女性ホルモンが働かないようにしたり、エストロゲンがつくられないようにする治療法なので、正確には「抗ホルモン療法」といいます。

閉経前と後で治療薬は異なる

閉経前の人と閉経後の人では体内の女性ホルモンの環境が異なり、治療法も違ってきます。まだ卵巣機能が働いている閉経前の人には『LH-RHアゴニスト製剤』が用いられ、卵巣機能が低下した閉経後の人には『アロマターゼ阻害剤』が用いられます。また、閉経の状況を問わずに効果を示すものに『杭エストロゲン剤』があります。杭エストロゲン剤は乳がんのホルモン治療薬の中で最も標準的な薬であり、乳がんの増殖を促すエストロゲンがエストロゲン受容体(ER)と結合するのを妨げることで、ホルモン依存性の乳がんの増殖を抑えます。

抗エストロゲン剤やアロマターゼ阻害剤は毎日経口で5年~10年間服用し、LH-RHアゴニスト製剤は4週、12週、24週ごとに1回、2~3年間ほど皮下脂肪の中に注射します。それぞれの薬剤の副作用として、ほてりやのぼせ(ホットフラッシュ)、発汗をはじめ、関節や骨・筋肉の症状、生殖器の症状、精神・神経の症状が出ることがあります。

薬物を用いた乳がんの全身治療

薬物療法の必要性

乳腺で生まれた乳がんは乳房の中で発育しながら、血液やリンパ液の流れにのって全身を巡り、流れ着いた臓器などで再び芽を出し、新たに発育することを転移といいます。また、転移が乳房と乳房の近くのリンパ節を越えてそれより外部へ及んだものを遠隔転移といいます。そして、転移したがん細胞が成長しレントゲン写真などではっきり見てとれるようになると再発といいます。
こうした転移や再発の危険性は、ごく早期の場合を除いた多くの乳がんで考えられます。転移したがんは、放っておくとどんどん成長し、臓器を破壊してやがて私たちの命を奪います。

局所治療である乳がんの外科手術や放射線治療は、がんが及んだ範囲内での効果しか期待できません。がんが乳房と近くのリンパ節にとどまっている場合には大きな効果がありますが、全身へ転移してしまったがんに対しては一般に無力で、転移したがんを治療するためには、全身治療としての薬物療法が必要になります。

薬物による乳がんの治療法

手術が困難な進行性の乳がんや、しこりが大きくて乳房温存手術が困難な乳がんの患者さんには、がんを縮小させて手術を可能にする目的で、術前に薬物療法をおこなうことがあります。また、乳がんのがん細胞は血液やリンパ液を介して体内の別の場所へ運ばれ、手術後もどこかに隠れている可能性があるので、こうしたがん細胞を根絶する目的で、術後に薬物療法をおこなうのです。

抗がん剤治療にはさまざまな副作用がありますが、抗がん剤治療を受けることで、乳がん患者さんの多くは再発が予防され、乳がんで死亡するリスクが低くなります。副作用を抑えるための治療も発達してきていて、以前と比べるとだいぶ楽に治療が受けられるようになっています。

乳がんの薬物療法には、化学療法(抗がん剤療法)、抗HER2療法(分子標的治療)、ホルモン療法(内分泌療法)の3つの大きな治療法があります。薬剤にはさまざまな種類があり、薬剤の組み合わせについては、サブタイプの分類により異なります。
がん細胞の性質はサブタイプによって異なるので、次のようにそれぞれのタイプに適した薬物療法(化学療法、抗HER2療法、ホルモン療法)を選択して治療を進めていきます。

乳がんのサブタイプによる薬物療法

  • ルミナールAタイプ ・・・ホルモン療法
  • ルミナールB(HER2陰性)タイプ ・・・ホルモン療法 + 化学療法
  • ルミナールB(HER2陽性)タイプ ・・・ホルモン療法 + 化学療法 + 抗HER2療法
  • HER2タイプ ・・・化学療法 + 抗HER2療法
  • トリプルネガティブ ・・・化学療法

乳房温存手術後の放射線治療

放射線治療で乳がんの再発の危険性を減らす

放射線治療は、高エネルギーのX線を照射することでがん細胞を死滅させる治療法です。放射線を照射した部分だけに効果を発揮します。
がん細胞は正常細胞よりも放射線の影響を受けやすいので、正常細胞に大きなダメージを与えない範囲の線量を照射することでがん細胞を死滅させます。

乳がんの治療においての放射線治療は、おもに乳房部分切除術(温存術)後の残された乳房のどこかに潜んでいるかもしれない微小ながんの再発を防ぐためにおこないます。再発した場合にも、がんの増殖や転移による痛みなどの症状を改善するためにおこなうことがあります。
なお、放射線治療をおこなうことによって、乳房内でのがんの再発は約3分の1に減ることが明らかにされています。

温存手術を受けた患者さんは、術後20週以内に放射線治療を受けることが原則ですが、もともと乳房内に再発する危険性が低い人(高齢でホルモン療法が効くタイプ)の場合などには放射線治療を省略できることもあります。

乳房を全摘した場合は、原則として放射線治療を受ける必要はありません。しかし、腫瘍の大きさが5cm以上だったり、複数(4つ以上)のリンパ節への転移が認められ、胸壁やリンパ節などから再発する危険性が高い場合は、化学療法やホルモン療法に加え放射線療法もおこなったほうがよいとされています。

放射線治療は毎日おこなう

放射線を照射する範囲や量、時間は、放射線治療をおこなう目的、病巣のある場所や広がり具合などによって管理されます。多くの場合、外来での治療が可能です。
放射線が物質(人体)に吸収される量を表す単位をグレイ(Gy)といいますが、手術した乳房全体に対して1回の線量2.0グレイの照射を、月曜日~金曜日までの週5日、毎日同じ時間におこないます。期間は約5週間~6週間かけておこない、総線量は50グレイ程度になります。
1回の照射時間はおよそ3分程度で、着替えも含めて10分ほどあれば終わります。

患者さんにとっては、毎日病院に通い治療を受けるのは大変なことですが、少しずつ分割して照射するのは正常組織への影響を減らし、がん細胞を弱らせて死滅させるためです。途中で間を空けてしまうと、同じ総線量を照射しても効果が薄れてしまうのです。

放射線治療による副作用

放射線治療の副作用には、治療中や治療終了の直後に現れる急性障害と、治療終了後の数カ月~数年後に現れる晩期障害があります。放射線の副作用が現れるのは照射した部位に限られ、残された乳房、手術した側の胸壁やその周囲のリンパ節領域となります。
放射線を照射しているときに痛みや熱さを感じることはなく、放射線物質が体に残ることもないので心配いりません。また、抗がん剤を使ったときのような重度な副作用は、ほぼありません。

治療中や治療終了直後に現れる副作用には、多くの患者さんに皮膚炎が見られます。放射線を当てている部分の皮膚が日焼けをしたように赤黒くなり、かゆみが出たり、ヒリヒリすることがあります。照射後には皮膚が黒ずんで汗をかきにくくなります。皮膚がカサカサと乾燥するので保湿することが大切です。また、皮膚が弱くなっているので、傷つけないように注意が必要です。
そのほか、照射期間中には、疲れやだるさを感じる患者さんもいます。

治療終了後しばらくして現れる副作用については、重大な副作用の頻度は少なく、それほど心配する必要はありません。しかし、まれに、放射線が肺に照射されることによって起こる肺炎が治療後数カ月以内に見られることがあります。せきや微熱が続いたり、胸の痛みや息苦しさなどが起こります。

放射線治療を受けることによって、新たながん(2次がん)の発生が心配な患者さんもいると思いますが、その危険性は極めて低くなっています。