乳がんの診断のための検査

確定診断のために必要な検査とは

乳がんであるかどうかを正確に診断するためには、まずマンモグラフィ検査と超音波検査の両方をおこなうことが必要です。両方の検査のそれぞれの長所と短所を補うということからも、どちらか一方の検査しか受けていない場合、もう一方の検査も受けることになります。

これらの画像診断で乳がんだと診断されても、それだけで治療を始めるわけではありません。乳がんの確定診断のためには、しこりから細胞や組織を採取して顕微鏡で調べ、がん細胞を直接確認する病理診断も必要です。これは、専門の病理医によっておこなわれます。
さらに治療を始めるためには、がんがどれくらい広がっているか、転移があるのかないのかを調べたうえで、正しい進行度の診断を受けなければなりません。乳腺内での乳がんの広がりを正しく診断されることが、乳房温存療法の適応になるのか否かを決定し、さらには安全で美容的にも優れた乳房温存療法がおこなわれるための第一歩となるのです。

細胞診と組織診

先にも言ったように、乳がんの疑いがある場合、確定診断のために病理診断がおこなわれます。診断のための病理検査には、細胞を取って染色し顕微鏡で観察する「細胞診」と、細胞の塊としての組織を取って染色し顕微鏡で観察する「組織診」(生検)という検査法があります。
細胞診では乳房に細い針を刺して細胞を採取し、組織診(針生検)では局所麻酔のもと、やや太い針を刺して組織を採取します。状況を見てどちらか、または両方をおこないますが、より正確な診断のためには組織診のほうが優れているといえます。

細胞診は、がんが強く疑われる場合だけでなく、良性の病変の確定診断にもおこなわれる検査法です。少しでも良性の診断に疑念が残るときには、体への負担が少ない細胞診でがんではないことを確認します。

乳房の細胞診には、穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)や乳頭分泌物細胞診などがあります。穿刺吸引細胞診は、触れてわかるしこりや超音波検査でわかるしこりに対しおこないます。細胞診では浸潤がんか非浸潤がんかの区別が難しいので、それによって治療法が違ってくる場合には、組織診(針生検)が勧められます。

組織診は、細胞診に比べて診断精度が高く、悪性か良性かの判別だけではなくて、良性の場合どういった病変なのかを診断することもできます。また、乳がんであった場合には、ホルモン受容体やHER2(ハーツー)受容体の有無、がんの種類や性質を診断します。これにより乳がんのサブタイプがわかって、治療方針を立てる手がかりとなります。

画像、病理などの検査結果をみて総合的に判断する

細胞診、組織診は乳がんの診断をつけ、治療を始めるために欠かすことのできない検査法です。細胞診や組織診をおこなって陽性の結果が出ると、乳がん間違いなしだと思われがちですが、実は乳がんの病理診断は非常に難しいものが多いのです。専門の病理医でも、良性か悪性かの判定に迷うものが多いといいます。ほかにも、がんと間違えやすい良性の病変もあります。
正しい診断のためには、画像診断や病理診断、そのほかの検査結果と照らし合わせ、総合的な診断が下されます。

良性のしこりと悪性のしこり

正常な細胞というのはそれぞれに役割があって、私たちの体の制御のもとにその機能を果たしています。しかし、いろいろな要因によって細胞が変化し、体の制御を離れて、異常な増殖を始めることがあります。その結果としてしこりができますが、それを「腫瘍」と呼びます。

良性と悪性のしこりの違い

しこり(腫瘍)には良性のものと悪性のものがあります。良性のしこりの場合、あるところまでいくとそれ以上は増殖をしません。そして、良性のしこりは一般に増殖の速度が緩やかで、周囲の組織とは明瞭な境界があり、転移や浸潤の傾向を示しません。その一方、悪性のしこりの場合はいつまでも異常な増殖を続けて、周囲の組織へ浸潤したり、遠隔転移を起こして、やがては私たちの命を奪うこともあります。この悪性のしこりが「がん」なのです。
良性のしこりでも、脳にできる脳腫瘍のように、腫瘍の場所によっては予後が悪い場合もあります。子宮筋腫のように、悪性化はしないけれども、大きくなるとさまざまな症状を引き起こすこともあります。

乳房のしこりには、乳管内乳頭腫や線維腺腫といった良性のしこりがあります。乳腺症もこのような良性の病変が集まったものです。一般には良性のしこりは体に危害を加えないので、診断がきちんとつけば、放っておいてもかまいません。ですから切除する必要はありませんが、特に大きくなってしまったものや、良性か悪性かの判断が困難な場合には、腫瘍の切除が勧められます。

良性のしこりだと診断がついたものでも、悪性に変化するのではないかと、心配になる人もいるでしょうが、乳腺にできた良性腫瘍が悪性のがんに変化することはほぼありません。ただ、乳腺にできる腫瘍には良性か悪性かの診断が難しいものが多いので、定期的に検査を受けておくと安心です。

信頼できる専門医をみつけることが大事

がんの治療においては、初期治療でその後の運命が決まるので、信頼できる専門医に出会えるかが大事になります。しかし、実際には、がんを宣告されてから治療の開始までにはあっという間の時間しかなく、心から信頼できる専門医をみつけることは容易なことではありません。乳がんの診断を受けた施設からの専門医の紹介が一般的だと思いますが、医者と患者の間には相性の問題もあります。そんなときには、セカンドオピニオンを受けることもひとつの手段です。

乳がんと間違えやすい病気の種類

検診を受けて乳がんと疑わしい診断結果が出たり、自己検診をおこなって異常をみつけたりすると、自分はがんなのか・・・と心配すると思いますが、乳房の病気には、乳がんの症状と似ていて間違えやすい病気がほかにもあります。

乳腺症(にゅうせんしょう)

乳腺は長期間にわたって女性ホルモンの影響を受け、母乳をつくる準備を繰り返しています。その結果さまざまな病変が現れることがあるのですが、こうした病変やその集まりのことを「乳腺症」と称しています。
症状として、乳房に痛みがある、局部的にしこりのようなものがある、乳房が張った感じがする、広い範囲に厚ぼったい感触があるなど、乳がんと似ている場合もあります。
乳腺症は、女性ホルモンのバランスが乱れることが関係していて乳腺の老化現象のようなものです。ですから、本来は病気とみなされず、乳がんではないが乳房に何らかの異常があるという意味で広く使われています。
乳腺症と乳がんは直接の関係はありませんが、乳腺症で現れた症状は、乳がんのリスク因子となります。また、「乳腺症ですから様子をみましょう」といわれたものの中に乳がんが隠れている場合もありますから、経過観察をする必要があります。

乳腺炎(にゅうせんえん)

乳腺炎というのは、細菌感染などによって起こる乳房の感染症です。部分的に赤く腫れて痛みが出たり、膿(うみ)がたまってしこりができたりします。授乳期の女性に見られることが多く、乳管の中に母乳が詰まって、そこに乳頭にできた傷などから細菌が侵入して感染します。
そのほか、陥没乳頭の人にも起こりやすいです。引っ込んだ乳頭内に分泌物が詰まり、細菌が感染して発症します。治療しても繰り返して炎症が起こり、直りにくいこともあります。
治療は、抗生物質を内服したり、膿がたまっているときは注射器で吸ったり切開したりして膿を出します。
乳腺炎は炎症性乳がんと症状が似ていて区別が難しいので、異常を感じた場合には早めに専門医を受診しましょう。

乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)

乳管内乳頭腫は、乳頭の近くの太い乳管にできる良性のしこりです。40~50歳代の人に多く見られます。しこりは柔らかくて小さいものが多いのでわかりにくいのですが、乳頭から血のまじった分泌液が出ることがあり、乳がんとの区別が難しい病気です。画像診断や生検で診断を確定する必要があります。

線維腺腫(せんいせんしゅ)

線維腺腫は、10~30歳代の比較的若い人に多くみられる、しこりができる病気です。このしこりは正常な細胞が過剰に増殖してできたもので、腫瘍ではありません。しこりの境界がはっきりわかり、乳腺の中でよく動くという特徴があります。たいてい2~3cmほどの大きさですが、患者のうち30%くらいの人は、そのままにしておいても自然と小さくなって気にならなくなります。ただし、しこりの大きさが3cm以上ある場合など、葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)という悪性の可能性もある病気と区別が難しいので、細胞診や生検をおこなって確実な診断を受けたほうがよいでしょう。また、経過観察が必要な場合もあります。

葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)

葉状腫瘍は線維腺腫とよく似た腫瘍で、しこりの大きさは線維腺腫よりも大きいことがあります。腫瘍の多くは良性ですが、悪性のものもあります。葉状腫瘍が疑われる場合は切除が必要になりますが、切除しても再発を繰り返すことがあり、骨や肺などに遠隔転移するものもあります。術後も定期的な検査が必要です。

乳がんのサインを見逃さないための自己検診

日本ではマンモグラフィによる乳がん検診が普及してはいますが、お風呂で体を洗っていたときや、たまたま胸に手が触れたときなどに、自分自身で異変に気がついて乳がんだった、というケースが多いのが事実です。乳がんの症状を知って、普段から自分の乳房に関心を持っておくことが大切だといえます。そして、異変を感じたら迷わず専門医を受診しましょう。

しこりが早期発見の手がかりとなる

乳がんの最も重要な兆候は『しこり』で、乳がんの人の全体の8割以上でしこりが触れます。このように、乳がんを自分で発見するときの大きな手がかりは、しこりなのです。
そのしこりを見つけるための一番の方法は、入浴のときに自分で乳房に触れることです。胸に石けんをつけて、乳房の表面を指をすべらせるように、くまなく触ります。右手で左の乳房を、左手で右の乳房を、指先や手のひらで、なでるようにします。石けんがついていると手がすべりやすくなり、しこりがあった場合に見つけやすくなるのです。乳房を中心に、脇の下から鎖骨の辺りまで、胸全体の広い範囲を、指先と手のひらに神経を集中させて、ゆっくり触ってみましょう。

しこりは、石のようにころっとしたものだけではなく、扁平な塊だったり、乳頭に向かって扇状に触れるものなどもあり、さまざまです。境も、はっきりとわかるものは少なく、なんとなく全体が硬い感じのものもあります。このように、一概にしこりといっても、形や大きさは人それぞれに違うということを覚えておきましょう。また、乳がんには、しこりのない乳がんもあります。

触るだけではなく見ることも大切

乳房は、ふくらみの中にやわらかい乳腺と脂肪が詰まって形がつくられています。表面の皮膚はなめらかな曲面となっていますが、乳がんができると、この曲面が変形します。乳房の形のゆがみ、ひきつれ、くぼみなど、乳房の表面に生じる変形を見逃さないようにしましょう。こうした変化がないかを目で見ることも大切です。
入浴のときなどに、鏡の前に立ち、まずは腕を下ろした状態で、乳房や乳頭の形に異常がないかを観察します。続けて、今度は腕を上げて同じように観察をします。

乳房の皮膚の変化に注意する

えくぼのような乳房の皮膚のくぼみを「えくぼサイン」と呼びます。皮膚につながっているクーパーじんたいが、がん細胞によって内側から引っ張られることで生じます。えくぼサインは乳がんを発見する重要なサインですが、特殊な乳腺症などでもできることがあります。
がんがもう少し進行すると、変形がかたまってきます。これが乳房のひきつれです。乳房の曲面に、不自然な皮膚のひきつれが生じます。このひきつれは、がんでない限りできるものではないので、気づいたらすぐに専門医を受診しましょう。

乳がん検診の種類

乳がん検診を受けるには、地方自治体がおこなう検診や、加入する健保組合や事業所による検診、個人で任意で受ける検診があります。
厚生労働省では日本国民のがん検診の受診率が50パーセント以上になることを目標にがん検診を推進していて、乳がん検診の場合、「40歳以上の女性に対して、2年に1回、問診及びマンモグラフィ検診をおこなう」ことが指針で定められています。地方自治体による検診では、ほとんどの市町村でがん検診の費用の多くが公費で負担されているので、私たちは一部の自己負担でがん検診を受けることができます。

乳がん検診には、医師による問診や視触診のほか、超音波(エコー検査)やマンモグラフィ(エックス線検査)という画像検査があります。
視触診では、医師が乳房を観察したり手で触れて、しこりや変形が無いか、乳頭からの分泌物が無いか、リンパ節が腫れていないかなどを調べます。視触診だけなら体に負担はかかりませんが、小さな乳がんを発見することは難しいので、超音波検査やマンモグラフィを合わせておこないます。

マンモグラフィと超音波検査は、それぞれの物理学的特性を活かした検査方法で利点があります。どちらか一方よりも、両方受けることが望ましいです。

マンモグラフィ(乳房X線検査)

マンモグラフィとは、乳腺専用のX線(エックス線)を用いた検査法で、乳がんの検診手段としては最も基本的です。プラスチックの板で乳房をはさんで平らにして、専用のX線装置で乳房全体を撮影します。
マンモグラフィの優れている点は、しこりだけでなく、しこりの前段階の微細な石灰化した病変を発見できるところです。視触診だけでは発見することができないしこりや、石灰化した小さな乳がんの発見に適しています。ただし、乳腺が発達している若い女性や、乳腺濃度が高い(デンスブレスト)女性では乳腺組織が全体に白っぽく映ってしまうため、初期の乳がんを発見しにくい場合があります。欧米人女性と比べ、日本人女性にはデンスブレストの人が多いようです。
デメリットとして乳房を圧迫するときに痛みを感じることがあるので、マンモグラフィを敬遠する女性もいるようですが、乳房をじゅうぶんに引っ張って平たくするのは、撮影に必要な放射線量を最小限に抑えて、より正確な画像にするためです。検査を受けるには月経の前の時期を避けたほうが、比較的痛みは和らぎます。また、放射線による被ばくの心配がありますから、妊娠の可能性がある場合には申し出たうえで検査を受けましょう。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査とは、人間の耳には聞こえない周波数の高い音を機械から発射し、跳ね返った音を画像化したもので診断する検査です。超音波を出す器具を直接乳房に当てて、写し出された画像を見ながら診断をおこないます。
超音波検査では、触診ではわからない大きさのしこりを発見することができます。また、しこりが良性であるか悪性であるかの判別診断に優れています。
放射線被ばくを避けたい妊娠中の人、強い乳腺症などで良好な撮影ができない人や高濃度乳腺(デンスブレスト)の人、乳房の圧迫に耐えられない人などにはこの超音波検査が適しています。安全な検査方法ですから、安心して検査を受けられるというのが、大きな利点です。

乳がん検診の重要さ

生存率は検診で乳がんが見つかった人のほうが高い

現代は、2人に1人が何らかのがんになってもおかしくない時代ですから、がん検診を受けることが必要なのは、みんなわかっていると思います。それなのに、日本では女性の検診受診率がとても低いのが現実です。欧米人女性の検診受診率が70~80パーセントなのと比べて、日本人女性の場合は40パーセント程度しかなく、極端に低いのがわかります。

乳がんが原因で亡くなる人の死亡率は、近年では世界中で減少しているといいます。しかし、日本では例外で、増加の一歩をたどっています。乳がんの治療法はめざましく進歩していますが、乳がんによる死亡者数は減ってはいません。これは乳がんになる人がすごい勢いで増え続けていることもあるのですが、受診率の低さが死亡者数増加の1つの原因であることは間違いないのです。

検診をおこなって乳がんが発見された場合と、しこりなどの自覚症状から発見された場合では、検診で発見された人のほうが生存率が高いというデータがあります。このことは、それだけ早期に治療を始めることができたからだとも考えられ、定期的に乳がん検診を受けることはとても重要なことだと言えます。

ただし、マンモグラフィなどの画像検査は優れた検査法ではありますが、残念ながら完璧というわけではありません。実際に、検診で『異常なし』と診断された人でも、1年以内に自分で乳がんを見つけているという報告もありますから、「検診さえ受けていれば安心!」と考えずに、あわせて定期的な自己検診をおこないましょう。

セルフチェックを習慣にする

胃や大腸のような臓器は自分の手で触ることができませんが、乳がんでは、乳房を手で触って確かめることができます。体の内部にでき症状が出ないと発見されにくい他のがんに対して、乳がんは自分で見つけることができるがんです。そこで、医療機関で検診を定期的に受けるだけでなく、自己検診の習慣をつけることが大切になります。
毎月1回のセルフチェックで、いつもと違う乳房に気づくことができます。セルフチェックは、生理が終わった4~5日後くらいが適しています。閉経後の場合は、毎月、日を決めておこなうとよいでしょう。

「自分には関係ない」ではなく、「自分も乳がんになるかもしれない」という気持ちが早期発見につながるのです。
たとえ乳がんになっても、早期のうちに発見し適切な治療を受けて、乳がんを克服しましょう。そのためにも、自己検診の習慣をつけましょう。

日本人の乳がん

乳がんになるのが最も多いのは閉経前後

以前は、日本人女性が欧米人女性と比べて乳がんになる人が非常に少なく遺伝的に乳がんになりにくい人種だと考えられていましたが、日本人もライフスタイルの変化などによって徐々に乳がんのリスクが高まっています。実際に、日本では乳がんになる人が年々増えていて、乳がんが原因で死亡する女性も増えています。

乳腺は思春期に完成し、子供を産んで授乳することで乳がんになりにくい乳腺へと変化します。初潮を迎え、出産、授乳するまでの乳腺は、エストロゲン(女性ホルモン)などの発がん物質に敏感で、乳がんになりやすいのです。

年齢別に見た場合、乳がんになる人は30代から増加しはじめ、40歳代後半から50歳代前半くらいにピークとなります。また、最近では閉経後も増えています。しかし、乳がんは最もよく治るがんであり、発見が早ければ早いほど生存率が高くなりますから、自分の命を守るためにも、閉経前後の検診は特に重要なのです。

閉経後の肥満に注意する

女性の乳がんが発症するリスクは年代を経るにしたがい大きく増加していますが、原因は高齢出産や少子などのライフスタイルの変化や昔の日本よりも豊かになった食生活にあると考えられます。そして、アルコールの摂取と喫煙は、明確に乳がん発症リスクを高めます。

閉経後の発症率としては昔から欧米人のほうが高いのですが、これは食生活の違いだと考えられ、肥満は、閉経前の女性でも乳がんの発症リスクが増加する可能性はありますが、閉経後の女性ではリスクの増加は確実です。

非浸潤がんと浸潤がん

乳がんは、乳管と小葉を形成している細胞ががん化することで生まれます。がん細胞は、はじめのうちは乳管の中だけで伸びるように成長していき、これを進展といいます。やがて乳管の壁をつき破り、壁の外側にある基底膜も破ってどんどん増殖していくのですが、これを浸潤(しんじゅん)と呼びます。
このように、がん細胞が乳管内にとどまっている場合を「非浸潤がん」といい、発育して乳管の外へ出てしまったがんは「浸潤がん」といいます。

非浸潤がんのほうは転移しないがんで、乳がん全体の10~20パーセント程度を占めています。そして、浸潤がんは転移する可能性のあるがんで、乳がんが発見された人のほとんどがこの浸潤がんに当たります。

乳がんの進行、浸潤がんの病期

非浸潤がんは極めて早期の乳がんで、「0期のがん」とも呼びます。ステージも0で表されます。がんができた部分を手術で完全に切除できれば転移することはありません。しかし、放っておくといずれは浸潤がんへと成長してしまいます。

浸潤がんは、その大きさや転移の状況によって、Ⅰ期からⅣ期までに分けられます。浸潤がんのうち、しこりの大きさが2センチまでで、リンパ節への転移は認められない場合を「Ⅰ期」といいます。続いて「Ⅱ期」、「Ⅲ期」とあって、「Ⅳ期」の乳がんになると、臓器などの離れたところに転移していて完治することが難しくなります。

病期には時間の経過だけでなく性質も関係している

乳がんの進行具合を表すのには、早期や末期という言葉が用いられます。これは、必ずしもがんができてからの経過時間の長さを意味するものではありません。がんが時間の経過とともに進行していくのは間違いありませんが、それよりも、乳がんの病期にはがんが生まれながらに持った性質が反映するのです。

例えば、非浸潤がんの中には、時間が経過しても非浸潤がんのままでいるものもありますし、極めて短期間のうちに浸潤がんに成長して、遠隔転移し、末期のがんになってしまうものもあります。特に、35歳以下の若い人にできた乳がんは、一般的に増殖のスピードが速いと考えられます。

乳がんはなぜできるの?

女性にとって大切な女性ホルモンが乳がんの元凶

女性の乳房は、母乳をつくるための乳腺と脂肪組織からできています。乳腺というのは乳頭の皮膚の細胞が変化してできたもので、乳腺が完成するのは思春期です。ホルモンが乳頭の皮膚の細胞に働くと細胞が変化して、管状の根が皮下脂肪の中に次から次へと伸びていきます。これが乳管です。乳管の先端は小葉に変化して乳腺がつくられます。小葉では母乳がつくられ、赤ちゃんが生まれると母乳は乳管を通って乳頭から出てきます。

乳腺をつくりだす各種ホルモンの中では、エストロゲンという女性ホルモンが最も重要な働きを担っています。エストロゲンは女性らしい体の美しさをつくるもとであり、乳腺と乳房をつくりだす原動力のようなものですが、その一方では乳がんができる手助けをして、その発育を促す要因にもなってしまうのです。

女性ホルモンには、「エストロゲン」という卵胞ホルモンと「プロゲステロン」という黄体ホルモンの2種類があり、卵巣でつくられます。エストロゲンは女性らしい体をつくりだすもので、子宮の発育や子宮内膜の増殖、乳腺の発達などの役割があります。一方のプロゲステロンは、子宮内膜に栄養が行き渡るように作用し、母乳をつくる小葉の成長と発育を促す働きをします。この2つがうまく組み合わさることで、女性の月経周期や妊娠、乳腺の発育などがコントロールされています。

この2種類の女性ホルモンのうち、乳がんの危険因子となるのがエストロゲン(卵胞ホルモン)です。「どれだけたくさんのエストロゲンにさらされたのか」が大きく影響します。例えば、初潮が早く閉経するのが遅いということは、エストロゲンの影響を長期間受けているということで、乳がんになるリスクはそれだけ高いと考えられるのです。

乳がんになりやすいのはどんな人か

女性ホルモンのエストロゲンが乳がんの発生に大きく影響することがわかったと思いますが、さらに、乳がんになりやすい条件やリスク因子として、次のようなことが考えられます。

  • 初潮が早く、閉経が遅かった
  • 初めての出産が30歳を過ぎてからだった
  • 出産や授乳の経験がない
  • 閉経後に太ってしまった
  • 血縁者に乳がんになった人がいる

乳管の細胞は、月経、妊娠、出産、閉経を通じて、めまぐるしく機能が変化します。赤ちゃんを何人も産んで母乳をたくさん出した乳腺は、乳管の細胞が分化してやがては老化し萎縮するのですが、その結果、乳がんになりにくい乳腺となります。逆に、出産・授乳の経験のない乳腺は乳管の細胞が若々しさを保ちますが、乳がんにはなりやすいといえます。
また、乳がんの中には、乳がんの人の血縁者に複数の乳がん患者がみられる「家族性乳がん」があります。これはがん遺伝子の働きによって発症するもので、BRCA1、BRCA2などの原因遺伝子が見つかっていて、こうした遺伝子を持っている人は乳がんのリスクが高くなります。

このように、乳がんになりやすい人の条件というのはあるのですが、一番のリスク要因は、成人女性であるということです。条件に関係なく、成人女性である限りは誰でも乳がんになる可能性があるのです。

がんて何もの?

がん細胞にはこんな特徴がある

いまは日本人の2人に1人ががんになるという時代。自分の身にそれが起こっても、何の不思議もありません。
がんは悪性新生物といわれるように、私たちの体の中に生まれる、とても厄介な生きものです。遺伝子が傷つきその異常によって、自分の体をつくっている1つの細胞が悪性の生きものに生まれ変わってしまうのです。

がん細胞と正常な細胞の違いは何?

がん細胞には正常な細胞と決定的に違うところが2つあります。それは、がん細胞は、自分勝手に増殖すること、無限に増殖することです。
正常な細胞というのは他からの指令によって増殖を始め、指令がやむと増殖を止めるという非自律的な増殖をしますが、これに対し、がん細胞は他からのコントロールを逃れ、自律的に、止まらずに増殖し続ける能力を持っているのです。

無限に増殖を続けるがん細胞

正常な細胞には寿命があります。それは遺伝子の一部に調節されていて、決まった数の分裂を繰り返した後、やがては死滅します。生きものは、子孫を残し、老化して死に至るというのが自然の摂理です。しかし、がん細胞は、この摂理から逃れる仕組みを持った生きもので、栄養や温度などが整っていれば、限りなく増殖を続けることができます。

がんは転移する能力を持っている

がん細胞の特徴の1つに、「転移する能力をもつ」ことがあります。がん細胞は、血液やリンパ液の流れにのって、生まれた場所から他の臓器などへ流れつき、次から次へと新しいがん組織をつくってしまいます。これを転移するといいます。がんが厄介で怖いのは転移するからで、転移すると治療が困難になります。
がんは大きくなればなるほど、それを構成する細胞は多様になります。がんが進行すると、抗がん剤が効きにくいがん細胞が増えるなど多様化し、時間の経過とともに転移が体中にひろがって、治療が難しくなるのです。