乳房温存手術後の放射線治療

放射線治療で乳がんの再発の危険性を減らす

放射線治療は、高エネルギーのX線を照射することでがん細胞を死滅させる治療法です。放射線を照射した部分だけに効果を発揮します。
がん細胞は正常細胞よりも放射線の影響を受けやすいので、正常細胞に大きなダメージを与えない範囲の線量を照射することでがん細胞を死滅させます。

乳がんの治療においての放射線治療は、おもに乳房部分切除術(温存術)後の残された乳房のどこかに潜んでいるかもしれない微小ながんの再発を防ぐためにおこないます。再発した場合にも、がんの増殖や転移による痛みなどの症状を改善するためにおこなうことがあります。
なお、放射線治療をおこなうことによって、乳房内でのがんの再発は約3分の1に減ることが明らかにされています。

温存手術を受けた患者さんは、術後20週以内に放射線治療を受けることが原則ですが、もともと乳房内に再発する危険性が低い人(高齢でホルモン療法が効くタイプ)の場合などには放射線治療を省略できることもあります。

乳房を全摘した場合は、原則として放射線治療を受ける必要はありません。しかし、腫瘍の大きさが5cm以上だったり、複数(4つ以上)のリンパ節への転移が認められ、胸壁やリンパ節などから再発する危険性が高い場合は、化学療法やホルモン療法に加え放射線療法もおこなったほうがよいとされています。

放射線治療は毎日おこなう

放射線を照射する範囲や量、時間は、放射線治療をおこなう目的、病巣のある場所や広がり具合などによって管理されます。多くの場合、外来での治療が可能です。
放射線が物質(人体)に吸収される量を表す単位をグレイ(Gy)といいますが、手術した乳房全体に対して1回の線量2.0グレイの照射を、月曜日~金曜日までの週5日、毎日同じ時間におこないます。期間は約5週間~6週間かけておこない、総線量は50グレイ程度になります。
1回の照射時間はおよそ3分程度で、着替えも含めて10分ほどあれば終わります。

患者さんにとっては、毎日病院に通い治療を受けるのは大変なことですが、少しずつ分割して照射するのは正常組織への影響を減らし、がん細胞を弱らせて死滅させるためです。途中で間を空けてしまうと、同じ総線量を照射しても効果が薄れてしまうのです。

放射線治療による副作用

放射線治療の副作用には、治療中や治療終了の直後に現れる急性障害と、治療終了後の数カ月~数年後に現れる晩期障害があります。放射線の副作用が現れるのは照射した部位に限られ、残された乳房、手術した側の胸壁やその周囲のリンパ節領域となります。
放射線を照射しているときに痛みや熱さを感じることはなく、放射線物質が体に残ることもないので心配いりません。また、抗がん剤を使ったときのような重度な副作用は、ほぼありません。

治療中や治療終了直後に現れる副作用には、多くの患者さんに皮膚炎が見られます。放射線を当てている部分の皮膚が日焼けをしたように赤黒くなり、かゆみが出たり、ヒリヒリすることがあります。照射後には皮膚が黒ずんで汗をかきにくくなります。皮膚がカサカサと乾燥するので保湿することが大切です。また、皮膚が弱くなっているので、傷つけないように注意が必要です。
そのほか、照射期間中には、疲れやだるさを感じる患者さんもいます。

治療終了後しばらくして現れる副作用については、重大な副作用の頻度は少なく、それほど心配する必要はありません。しかし、まれに、放射線が肺に照射されることによって起こる肺炎が治療後数カ月以内に見られることがあります。せきや微熱が続いたり、胸の痛みや息苦しさなどが起こります。

放射線治療を受けることによって、新たながん(2次がん)の発生が心配な患者さんもいると思いますが、その危険性は極めて低くなっています。