これまで乳がんの治療は、病期ステージに基づいて決められるのが一般的でしたが、近年はがんの性質についての研究が進み、乳がんの病期よりも性質のほうを重視して治療方針を決めようという方向へ変わってきています。そのために、生検などで採取した組織をもとにがんの性質を調べる検査が重要です。
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腫瘍(しこり)が小さいから大丈夫、大きいから手遅れ、ということではなく、しこりの大きさや進行度よりも、がんの性質が重要な情報となります。
乳がんの性質を知るポイントとなるのは次の4つです。
- ホルモン受容体が有るか無いか
- HER2受容体の過剰な発現が有るか
- がんの核異型度(悪性度)
- 細胞の増殖の割合を見るKi67の値
ホルモン感受性のあるがんにはホルモン療法が有効となる
日本人女性の乳がんの人のうち70パーセントくらいの人がホルモン受容体が陽性で、女性ホルモンのエストロゲンの刺激を受けてがん細胞が成長するタイプです。このタイプはホルモン感受性があるため、ホルモン療法が有効となります。
ホルモン受容体には、ER(エストロゲン受容体)とPgR(プロゲステロン受容体)の2つがあるのですが、どちらか一方でも陽性であればホルモン受容体が陽性であると診断されます。そして、陽性細胞の割合が1パーセント以上あると、ホルモン療法の適応となります。
ホルモン療法の効果の現れやすさは、陽性細胞の割合に比例します。つまり、陽性細胞の割合が高いほど、ホルモン療法の効果も高いといえるのです。
HER2受容体が陽性のタイプには分子標的薬を用いる
HER2(ハーツー)受容体は細胞の表面にあるタンパク質で、細胞の増殖を調整する役割があります。これががん細胞の表面に過剰に認められたものは、増殖能力が高く、成長のスピードが速く、転移しやすいのが特徴です。
HER2受容体が陽性の乳がんは、乳がん患者全体の20パーセントほどの人に認められます。このHER2受容体陽性の乳がんは極めて性質の悪いがんなのですが、分子標的薬といわれる抗HER2薬によく反応します。
分子標的薬は、一般の抗がん剤とは違い、がん細胞の表面にあるタンパク質や遺伝子のみをターゲットとして効率よく攻撃することができる治療薬です。トラスツズマブ(ハーセプチン)という分子標的薬はとても効果的な治療薬で、それまで、性質が悪く患者の予後が悪いとされていたタイプのがんが、むしろ「薬がよく効く性質の良いがん」だといわれるようになりました。
HER2タンパクが陽性か陰性かを調べる検査は、乳がんの性質を知って治療法を決定するうえで極めて重要です。がん組織の免疫染色法で測定され、0、+1、+2、+3の4段階で評価されます。
0は陰性、+1は弱陽性、+2は疑陽性、+3は陽性となります。+2の疑陽性の場合はFISH法という方法で再検査をおこない、HER2遺伝子が過剰発現していれば陽性となり、+3の人と同じくハーセプチンの適応となります。
がん細胞の悪性度と増殖能
がん細胞の悪性度とは、顕微鏡で見たがん細胞の形から判断するもので、がん細胞の「顔つき」と表現されたりします。悪性度は、グレード1、2、3の3段階で評価され、数字が大きくなるほど核の異型度が高く、悪性度も高いということになります。浸潤がんでは、がん細胞の悪性度が高いと転移や再発をする可能性が高くなります。
一般に、細胞が増殖する能力が高い乳がんは低い乳がんに比べ悪性度が高いのですが、そのぶん抗がん剤が効きやすいといわれています。がん細胞の増殖や活動状態の程度を表すのに、Ki(ケーアイ)67という指標が用いられます。Ki67は細胞が分裂するときに生じるタンパク質で、乳がんなどの増殖能力を示すマーカーとして用いられています。Ki67陽性細胞は増殖の状態にあると考えられ、したがってKi67陽性細胞の割合が高い乳がんは、増殖能が高く悪性度が高いと考えられます。
乳がんのサブタイプ
乳がんは、がん細胞の増殖にかかわる2つのホルモン受容体 ER(エストロゲン)とPgR(プロゲステロン)、HER2(ハーツー)、Ki(ケーアイ)67の指標の組み合わせで、サブタイプの分類がされています。サブタイプによって、薬物療法の内容も違ってきます。
乳がんのサブタイプ別の薬物療法はこちら
サブタイプの分類
- ルミナールAタイプ=ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki67増殖能低
- ルミナールB(HER2陰性)タイプ=ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki67増殖能高
- ルミナールB(HER2陽性)タイプ=ホルモン受容体陽性、HER2陽性
- HER2タイプ=ホルモン受容体陰性、HER2陽性
- トリプルネガティブ=ホルモン受容体(ER・PgR)陰性、HER2陰性
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